Japan tour 2002 ライブリポート・横浜・ドルフィ− 4/1/2002

ライブリポート by mid-west さん

 
  中村健吾さんのセカンドアルバム"Say Hello to Say Goodbye"のリリースを記念して行われているジャパンツアーの四日目。横浜桜木町のライブハウス「DOLPHY」では、静かに長く情熱的な一夜が始まろうとしていた。3月25日、青森シューズホール(扇風機さんの秀逸なライブレポートがある)で始まった今回のツアーだが、二日目・三日目を広島で行い、そして四日目がここ横浜である。すでに各地から、感嘆・賞賛の声があがっている。この間、健吾さんは3月29日に広島で37回目の誕生日を祝い心身共に絶好調。その健吾さんに今夜会えるのである。期待するなというほうが無理なのだ。

 今回のツアーの編成は、NYでのレコーディングのそれとは少し異なっている。大阪と東京の公演以外にはギタリストは加わらず、金管はトランペットとフリューゲルホーンに代わってアルトサックスとソプラノサックス。編成を変えてツアーを行うためには、アレンジやパート割、進行などを、おそらく一からやり直す必要があり、それぞれが高い技術持つこのメンバーにして、なお十分な準備と練習が必要なのではなかったか。
昨年組織されたというこのカルテットは既に評価は高いが、ツアー初日の十日前、NYから到着した健吾さんを、残りの三人が成田まで迎えに来ていたというエピソードも健吾さんのホームページ上で紹介されている。それからの練習がどのような密度で行われたか想像に難くない。そこには、お互いの人格と音楽性に対する深い理解とリスペクトがあり、愛と信頼がある。そのメンバーとは、アルトサックス&ソプラノサックスの池田篤さん、ピアノの野本晴美さん、ドラムスの高橋徹さんである。
  ちょうど長方形のこのライブハウスのいちばん奥まった場所にステージがしつらえられ、左からグランドピアノ・ベース・ドラムスがフラットに並べられている。午後7時45分、健吾さんに続き、野本さんが登場。ベースとピアノのデュオでライブが静かに始まった。

01 Divine Prologue
 
ファーストアルバム"Divine"から、今や名曲との評価が確定したこの一曲。野本さんのピアノソロから入る。この小柄で端正な美しさの女性が、どうしてこれほど存在感ある力強い演奏を聞かせてくれるのか不思議。しかも繊細なのだ。伏し目がちに、ピアノを弾くその表情はあくまでも理知的で、その美しさについ見とれていると、耳から聞こえてくる主旋律がいつのまにかスイングしはじめているという具合。健吾さんが、ベースをつま弾くようにして加わった。この曲の持つ表現力を生かしきった、あくまでもメロディアスな演奏である。健吾さんの「祈り」が、聞く者の心を正確に打つ。

02 Walkin' Together
 ここで、アルトサックスを持った池田さんとドラムスの高橋さんが登場。カルテットとなる。なんと男性陣三人は、チャコールグレイの三つボタンのスーツで統一。シャツで洒落のめす。健吾さんは赤のシャツに茶系統のネクタイ、池田さんは赤のシャツに黒のネクタイ、そして高橋さんはイエローのシャツにファンキーな柄のネクタイ。このかっこうで、怖い顔が上にのっかっていたらそれこそ本当に怖いのだが、三人ともあくまでも生真面 目でおとなしそう。ちょっとやんちゃでカワイイのである。野本さんは、黒いシャツにジーンズ。そしてカーボーイブーツ。とにかくチャーミングで美しい。
 セカンドアルバムの冒頭のこの曲は、コンポーザー中村健吾の新境地を高らかに宣言するばかりでなく、ベーシストとしての間口の広さ、語法の豊かさを知らしめてくれる。あくまでもジャジーでスインギーなのである。池田さんのアルトサックスにリードされて、グルーブ感がどんどん高まってゆく演奏。健吾さんのベースは、あくまでも力強く野性的だが、だからこそ都会的でスタイリッシュでもある。池田さんのポーカーフェイスの挑発に乗ったら最後。しかし、残りの三人ははじめから乗る気満々なのである。この曲で、今夜のライブの視界がグッとひらけてきた。

03 Serenade
 野本さんがカウンターに置いてあった"say hello to say goodbye"を持ってピアノの前に立ち、健吾さんが語る。「僕はこんどの作品をロマンチックなものにしたかったんですよ」。実はこのアルバム、健吾さん自身が言葉で語らなくても、誰にでもロマンチックなメッセージが伝わる内実をもっている。それが音楽的表現力の確かさだ。その「ロマンチック」な曲の典型としてこの曲が演奏された。ギター少年の片思いの恋心が結晶したという、珠玉 のバラードである。曲のモチーフからして、ギターのために書き下ろされた曲だが、今夜はアルトサックスとピアノがギターのパートを可変的に演奏していて実におもしろい。アルトサックスが奏でるボッサノーヴァが独特の艶めきをかもしだす。高橋さんが時にドラムスをマラカスに持ち替えて、自在にフレージングする。この人のドラムスとパーカションは正確にして優美。少し都会的で大人っぽくなったギター少年の恋の情景である。ずっと年上の女性に恋する少年へのオマージュというべきかもしれない。

04 Hackensack
 前曲に対する拍手が終わらないうちに、健吾さんのベースがソロを奏ではじめる。健吾さんは身体をくねらせながら、高音から低音までを見事に弾きこなす。螺旋階段をあがるように同じフレーズを変奏しながらグルーブ感を強めていくテクニックは見事という他はない。アルバムではソロで演奏されたこのセロニアス・モンクの名曲は、今回池田さんのアルトサックスが沈黙に我慢しきれなくなって割り込んでくることにより、一気にカルテットでの演奏へと進化し、お互いがお互いを挑発しあうことによって会場全体を巻き込んでスイングを始めた。アイコンタクトをしきりにとりながら、それぞれがソロパートを演奏してゆく。なかでも、健吾さんのボウイング奏法のソロは凄まじい迫力で、腰を入れて踊るように(このふたつの行為を両立するのは至難!)弓を使ってベースに挑む姿は感動的である。健吾さんは、メロディを口ずさみながら、というよりほとんど歌いながら演奏を続けた。

05 Suger Hill
 「僕が二枚目、二枚目というてると、友達が三枚目の君がなんで二枚目なんやと言うんですが・・・」と健吾さんは例の生真面 目なジョークで会場を笑わせ、「シュガーヒル」という曲目の由来を語る。NYの都心からAトレインに乗ってハーレムに向かうと、デューク・エリントンが住んでいたというエリアがあり、かつては大邸宅もあったが、今は比較的貧しい人が多く住んでいる。その地域を再開発するというかけ声の下に新しくできたライブハウスが「シュガーヒル」である。健吾さんはここで自身のライブがあると、カタコトの英語でMCを披露しているそう。英語でも生真面 目なジョークで聴衆を笑わせているのだろうか? 気がついたら、ドラムスの高橋さんが上着を脱いでいた。いくぜ!
 この曲は強烈なスピード感が身上。アルトサックスが主旋律をとり、全員がフルスロットルで駆け抜けてゆく。健吾さんは、恐ろしくファンキーな姿をさらしはじめる。実はファンキーこそ健吾さんの故郷なのである。ピアノは凄まじい速度でメロディを奏でている。凄かったのは、ドラムスとベースの掛け合い。凄い!ふたりとも止まらない。いつまでも曲が終わらないのである。汗だくになりながら、競演するふたり。そういえば、この曲はアルバムのテイクもフェードアウトで終わっている。エンドレスな演奏というのはこういうことだったのかと僕は妙に納得してしまった。

06 For Friends
 小曽根真さんが健吾さんのために書いた曲。健吾さんは語る。「僕は、不幸にして人生の師匠と呼べる人に今まで会ってこなかったんです。先輩はいたけど、歳が上というだけで尊敬もしていない人に対しては、敬語も使わない失礼なやつでした。ところが小曽根さんに会って、彼の生き方から音楽からすべてを見て、この歳になってはじめて人生の師匠に出会ったような気がしています。僕は小曽根さんに会って変わりました。小曽根さんに会っていなかったら、こうして自分のバンドも持っていなかったと思うし、CDも出していなかった・・・。小曽根さん、ときどき携帯でメールをくれるんです。『みんな頑張ってるか!』とか。(笑)その小曽根さんが書いてくれた曲。この『フレンズ』というのは、もしかしたら僕たちのことじゃないかと・・・。僕のために書いてくれたんじゃないかと思ってます。僕、この曲演奏する時すごく気合いが入るんですね。というのは転調が多くて、(あっ店長じゃないですよ!・・・注:健吾さん独特のテレである。愛を語る時の独特のテレ)難しい。
僕もいつかこういう曲を書きたいと思っています。すごくあったかい曲です」 「ついでに言いますが、インターネットのブロードバンド・プログラムとして、このメンバーの演奏が流れています。テレビ朝日系のM10.TVで去年の赤坂b♭での演奏が見られますので、みなさんも是非見てください。このあいだ、僕の部屋に小曽根さんが来たときに、ヘッドホンで『これ聴いてみてください』と言って聴いてもらったら、小曽根さんが野本さんのピアノを絶賛して『これすごいやないか』と。で、小曽根さんが是非野本さんによろしくとおっしゃってました。ここでお伝えしておきます」。野本さんは深々とおじぎ。「暑いのはこれのせいやったんや」とは健吾さんのひとりごと。健吾さんも「これ」つまり上着を脱ぐ。野本さんが立ち上がって、すかさずそれを受け取る。「さすが」と健吾さん。どんどん楽しくなってきた。このあとの演奏が、華やかで甘美であったことは言うまでもない。小曽根さんに対する愛とレスペクト。聴衆の我々も一体となっていった。

07 Brother Nutman
 
前曲の終了から間髪をいれず、ベースのソロがはじまる。ファーストステージの最終曲は、ファーストアルバムから選ばれた。サイラス・チェスナットに捧げるブルージーな一曲。こうして、セカンドアルバムの曲をたっぷり聴いたあとでこの曲を聞いてみると、健吾さんが当時ブルースに傾倒していたことがはっきりわかる。ブルージーにしてファンキー。これがファーストアルバムのフレイバーである。セカンドアルバムでは、おそらくもう一つのパンドラの箱が開けられたのであろう。 アルトサックスの池田さんがひっぱりまくる。彼は常にポーカーフェイスだが、とても楽しそうなのだ。それが、池田さんの真骨頂である。野本さんが、顔をあげてみんなの顔を見ながら饒舌にピアノを演奏。そして、カルテット全体が一気にブレイクした。たたくようにベースを演奏するソロからドラムスのソロに移り、そしてアルトサックスとボーイング奏法のベースとのかけあい。ゴージャスの一言につきる。
 
メンバーの紹介があって、ファーストステージは終了した。午後9時10分のことだ。


Program

セカンドステ−ジ